第6章 アマチュア音楽家として思うこと
第1章の第1節「私と音楽、そして音」で、「私にとって、音楽的興味の対象は、実は上記のようなフルオーケストラによる古典派やロマン派の楽曲から、バロック音楽に移りつつあったのです。それからのことは、第6章でまた述べていきたいと思います。」と書きました。
そのことをこの章で書いてみたいと思います。このことは防音とは直接関係のないことなのですが、付録的な章としてお読みください。
アマチュアとして
私は本業の建築設計と防音室設計・施工のかたわら、趣味として音楽の演奏活動を行っています。活動といっても、人前で演奏を披露するようなことはやっていません。人前で演奏を披歴して、聴衆に感動を与えることは、優れた音楽性と技術力を持って常に研鑽をつんでおられるプロの音楽家のなさることと考えており、私としてはあくまでもアマチュア音楽家の分際を守った活動をしたいと考えているからです。しかしそれは自己卑下ではありません。アマチュアにはプロとはまた違うアマチュアとしてもあり方があって、その矜持を守りたいと思っているのです。
ある本にこんなことが書かれていました。ある童話の話なのですが、
、「ある少女が、毎日道端で、たった独りで讃美歌を歌っていた。それはとてもきれいな声だった。ところがあるとき、通りかかった大人が、それをほめてお金をくれた。それ以来、その少女の歌声は濁ってきた。」
少女の歌声が濁ったのは、お金をもらったからだけではないと思います。ほめてもらったことによる自意識が、この少女の音楽活動を、音楽を奏でる楽しみから他者の称賛を求めることに変化させてしまい、そのことが少女の声を濁らせたのではないでしょうか。
この童話の一節は、アマチュア音楽家の在り方について大きな示唆を与えてくれるような気がするのです。
バロック・アンサンブル
私はバロック音楽を演奏するアンサンブルを主宰しています。参加メンバーは10人くらいで、月に1回くらい集まって、合奏を楽しんでいます。
私が担当している楽器は、ヴィオラ・ダ・ガンバです。え?それってどんな楽器?という方も多いと思います。ヴィオラ・ダ・ガンバというのは、ルネッサンス時代からバロック時代にかけて、つまり16世紀から18世紀中頃まで隆盛をきわめた楽器ですが、その後、古典派の時代になってからは衰退していきました。一時は殆ど忘れ去られた楽器になったのですが、20世紀になってバロック音楽が見直されるのに伴って復活を果たしました
ヴィオラ・ダ・ガンバは、小型のものから大型のものまでいくつかの種類があるのですが、一番よく使われているのはチェロと同じくらいの大きさのバスガンバと言われるもので、通常ヴィオラ・ダ・ガンバといいましたら、これを指します。
楽器の構え方もチェロと同じように両脚の間にはさむようにして保持して、やはりチェロと同じように弓を使って弾きます。ですから、初めて見た方は、あれ?チェロかな。でもちょっと違うような・・・と思われるようです。
【写真参照】・・・準備中です。すみません
さて私が主宰しているアンサンブルでは、ヴィオラ・ダ・ガンバの他に、リコーダー、フラウト・トラヴェルソ、チェンバロといった楽器が参加しています。これらの楽器もヴィオラ・ダ・ガンバと同じく、バロック時代に活躍した楽器です。これらについて少し解説しておきましょう。
リコーダーとは・・・そう小学生や中学生が音楽の授業で吹いている、あの縦笛のことなのです。そのためリコーダーは、特に日本においては子供の音楽教育のための簡易楽器のようなイメージを持たれているのですが、実はルネッサンスやバロック時代には、管楽器の主役の一つとして活躍しが楽器なのです。(ドイツ語ではブロックフレーテと呼ばれます)
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この楽器も、ヴィオラ・ダ・ガンバと同様、古典派の時代には廃れてしまったのですが、20世紀になって復活しました。この楽器の長所は、ともかく音が出しやすいということです。同じ管楽器でもフルートなどは、初めての人が吹くとスカスカいうばかりで全く音になりませんよね。ところがリコーダーは、初めての人でもともかく息を吹き込めば、ちゃんとした音が出るのです。そのためにこれが小中学生の音楽の授業で使われるようになったのです。ただそのために、前述のように簡易楽器という目で見られてしまっているのですが、実は素晴らしい楽器で、上手な人の演奏で聴くと、美しい音色に魅せられます。バロック時代にも、バッハ、ヘンデル、ヴィヴァルディといった大作曲家も、リコーダーのための名曲をたくさん作曲しています。現代では、プロのリコーダー奏者は世界中にたくさんいて、素晴らしい演奏を聴かせてくれます。もちろんCDもたくさん出ています。
次にフラウト・トラヴェルソ。これは聞きなれない名前だと思いますが、実は現代のフルートの、バロック時代の姿なのです。現代のフルートは金属でできていますよね。ところが木管楽器の仲間に入っています。それは、フルートは元々は木製だったからなのです。それが時代を経て改造を重ねられるうちに金属製に変化していったのです。つまりフラウト・トラヴェルソというのは、そのように変化する前の、フルートのオリジナルな形なのです。
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その表現性としては、前述のリコーダーが明快な音色で快活な表現を得意にするのに対して、フラウト・トラヴェルソは柔らかい音色で優雅な表現を得意にしています。この楽器を聴いたことのない方は、ぜひ一度、CDでかまいませんので、名手の演奏を聴いてみていただきたいです。きっと魅せられると思います。
さて次にチェンバロ(英語ではハープシコード)。この楽器はご存知の方も多いのではないでしょうか。鍵盤楽器で小型のグランドピアノのような形をしていますが、音色はかなり違います。それはなぜかというと、ピアノが弦をハンマーでたたいて音を出すのに対して、チェンバロはピックという爪状のもので弦をはじいて音を出すからです。
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この楽器はバロック楽器の女王ともいうべき楽器で、ソロで華麗な演奏を繰り広げる様は素晴らしいですが、アンサンブルにおいては、多くの楽曲で通奏低音と呼ばれるパートを担当して重要な役割を受け持ちます。この通奏低音とは、リコーダーやフラウト・トラヴェルソが奏でる上声部に対して低声部を受け持つパートなのですが、それは伴奏では決してなくて、バロック音楽においては上声部と低声部が同等の価値も持って独立性を保ちつつ、調和して重なり合いながら音楽を紡ぎだしていきます。(これが対位法というバロック音楽の中心的技法であり、その後の古典派以降の音楽とは違う特色であり魅力でもあります)
そして多くの場合、通奏低音のパートは、鍵盤楽器と低音弦楽器がペアを組んで奏します。わがアンサンブルにおいては通常、チェンバロとヴィオラ・ダ・ガンバがペアを組んでいます。
私の参加しているアンサンブルは、主としてこれらの楽器で編成されていますが、それ以外にもバロック時代は、いろいろな楽器が使われていました。
弦楽器では、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスといった、現代のオーケストラで主力の楽器も、すでに使われていました。またギターやリュート(日本の琵琶と大変よく似ているのが興味深いです)といった楽器もありました。
木管楽器では、オーボエもよく使われました。(クラリネットは、バロック時代には、まだありませんでした)。金管楽器は、トランペットやホルンが、すでに活躍していました。
打楽器ではティンパニが、現代のものよりかなり小型ですが、すでにありました。
そしてなんといってもパイプオルガンは、大型のものが教会の大聖堂などに設置されて楽器の王者の風格を醸し出していました。
バロック音楽の作曲家
さて前節でご紹介した楽器による音楽が、バロック時代には盛んに作曲されましたが、それは大きく分けて二つに分かれていました。それな教会音楽と世俗音楽です。
教会音楽とは、いうまでもなくキリスト教会において拝礼や宗教行事のために作られ演奏された音楽です。
一方、世俗音楽とは教会の行事とは関係しない、一般的な楽しみのための音楽です。この世俗音楽も、主に貴族階級の人たちが楽しんだ宮廷音楽と、庶民が楽しんだ音楽とがあります。ただ残念ながら、庶民の音楽は、あまりきちんと楽譜を作ったりすることもなく、印刷技術が始まったばかりという時代でしたので、ほとんど残っていないのが現状です。
それに比べて、宮廷での音楽は、名の通った作曲家が楽譜を書きましたし、印刷も行われましたので、その多くが残っており、また多彩なジャンルのものがあります。大きな劇場においては、声楽や合唱も含んだ大編成のオーケストラによるオペラが盛んに上演されましたし、一方宮廷のサロンでは、中小規模の編成の協奏曲や室内楽曲が人々の楽しみとして奏でられました。
バロック時代に活躍した作曲家のうち、現代でも作品がよく奏される有名どころの名前を挙げてみます。皆さんは、どれくらいご存知でしょうか。
ヨハン・セバスチャン・バッハ
ゲオルク・フリードリッヒ・ヘンデル
アントニオ・ヴィヴァルディ
ゲオルク・フィリップ・テレマン
トマゾ・アルビノーニ
アルカンジェロ・コレルリ
フランソワ・クープラン
ジャン・フィリップ・ラモー
ヘンリー・パーセル
まだその他にもたくさんの作曲家がいて作品を残しています。
私たちが演奏して楽しめる作品
さてこれらの作曲家が、大小の編成の作品を作曲しました。またそのジャンルも、大きな劇場で楽しまれたオペラ、教会の行事で演奏された宗教音楽(ミサ曲、カンタータ、受難曲など)から中・小編成のアンサンブル曲、またチェンバロやオルガンによる独奏曲など多彩です。
そのなかで、私たちアマチュアが楽しみやすいのが、なんといっても2~6人くらいの小編成の室内楽曲で、私が参加しているアンサンブルでも、主にそれらを、上記の楽器を使って演奏して楽しんでいます。
なぜバロック音楽なのか
さて、それではなぜ私たちのアンサンブルはバロック音楽をするのか。その最大の理由は、技術的に易しいからです。こんなことを言うと、バロック音楽愛好家の方々や、プロの演奏者の方から、お叱りを受けるかも知れませんが、私たちのようなアマチュアにとっては、易しいということはたいへんありがたいことなのです。
それはバロック時代以降、古典派(モーツアルトやベートーヴェン)、ロマン派(ブラームス、ショパン、チャイコフスキーなどなど)、近代(ドビュッシーやストラヴィンスキー)と時代が進みにしたがって、クラシック音楽はどんどん技術的に難しくなっていきました。そして、演奏することはプロが行い、一般の人はもっぱら聴くだけという方向に進んでいきました。
それに比べて、バロック時代には、特に世俗音楽においては、音楽を楽しむということは、自ら演奏して楽しむということが主流でした。そのために書かれた音楽が多いので、そういったアマチュア愛好家でも演奏できることを前提に作曲された曲が多いのです。
とは言っても、もちろんそのために曲の内容がつまらないのであればだめですが、上記のような名高い作曲家の作品は、技術的には平易でも、音楽的には優れたものがたくさんあります。
初心者でも楽しめる
例えば今まで楽器をほとんど練習したことがないという人でも、小中学校のときにリコーダーは吹いた経験があるのではないでしょうか。仮にそうではなくても、リコーダーは初心者でもすぐ良い音を出すことができますし、指使いもすぐ覚えられます。
そしてバロック時代には、このリコーダーをメインに使った名曲が、たくさんあります。
たとえば、ヘンデルの作曲したリコーダーソナタ集などは、その代表的なものです。リコーダーとチェンバロとヴィオラ・ダ・ガンバの編成で演奏すれば、初心者でも素晴らしい響きでアンサンブルの楽しさを味わうことができます。
もちろんバロック時代の曲がすべて技術的に易しいわけではありません。たとえは有名なヴィヴィルディの「四季」のように、高度なテクニックを必要とする曲もあります。しかしその「四季」の中でも、たいへん美しい「冬」の第2楽章などは、譜面上は本当に平易なのです。
また前記のヘンデルのリコーダーソナタ集でも、楽章によってはかなりのハイテクニックを必要とする場合もあります。しかし易しい曲もたくさんあります。そのように入りやすくて、しかも奥が深いということが、バロック音楽の特徴であり、アマチュアが楽しむのに最適な音楽と私が思う理由です。
楽しみかた
楽器を習うというと、今でもピアノを習うのが代表的なようになっています。もちろんピアノが弾けるということは素晴らしいことで、一人でショパンの名曲などを弾いて深い音楽性を感受するということは、音楽を深めるという意味において素晴らしいことなのですが、一方、アマチュアが音楽をする楽しみということは、気心の合う仲間で集まってアンサンブルすることにもあると思っています。そのためには、そのようなアンサンブル楽器(前述のバロック楽器やヴァイオリン、チェロ、フルートなど)が弾けるということも、音楽を楽しむという上においては、とても素敵なことです。
また楽器を演奏できるということは、ストレスの解消はもちろんのこと、健康面や老化防止にも効果が大きいのは間違いないと思います。
例えばリコーダーやなどの管楽器は、腹式呼吸を行います。また口元を引き締めることによる美容効果もあります。そして指先を使うことは老化防止に効果があるのは言うまでもありません。
さらに楽譜を見てそれが脳に伝わり、それが指や呼吸の動作につながるという、脳神経系の活性化につながるということも、いうまでもありません。
ともかく、いろんな面において、音楽活動をする効用は大きいというべきでしょう。
これを読まれて、ぜひバロックアンサンブルに加わりたいと思われる方がおられましたら、どうぞ下記までご連絡ください。ご一緒に楽しみたいと思います。