第4章 防音室づくりの基礎知識(3)室内のデザインと環境

さてここまで防音室の音を作るということについて、室内音響のことについて述べてきました。これらは直接に音というものを扱うことでしたが、防音室が音楽を奏で楽しむ場所である以上、ただ音が良ければ良いというだけでなく、その部屋としての快適さというものが必要になります。それがデザインと環境です。それらについて述べてみたいと思います。
 第一章でも書きましたが、皆さんは食事をするときどんな食器で食べますか。同じ料理でも食器によって味が違って感じると思います。フランス料理、イタリア料理、中華料理や日本料理、いくら美味しい料理でもアルミやプラスチックの味気のない食器では美味しい気がしません。音楽にもそれと同じことが言えます。
 同じピアノ演奏でも部屋のデザインによって味わいが変わります。その音楽や表現にふさわしいデザインの部屋で聴くのと、全然マッチしていない部屋で聴くのとでは受ける印象は大きく変わります。ですからデザインは大変大切な要素なのです。
 ところが世間でよく見られる防音室は、味も素っ気もないものが大変多いのは私には不思議でなりません。

 

 同じことが環境についても言えます。環境とは明るさ湿度や温度などの快適さです。まず防音室には適切な照明計画というものが欠かせません。部屋全体の雰囲気を良くするだけでなく、楽譜を読みやすくしたり楽器を弾きやすくしたりすることが大切なことだからです。
 そしてエアコンによる適切な温度や湿度の調節、そして空気を淀みのないものにするため換気も必要です。
 このようにデザインや環境についての配慮によって、そこでなる音楽はより楽しく美しく感じられるようになり防音室にいることの楽しさが倍加します。

 

 デザインや環境を良くすることは、それほどお金のかかることではありません。要は設計者や施工者のセンスと工夫の問題なのです。ですから皆様もこの点を決しておろそかにすることなく美しく快適な防音室作りをしていただきたいと思います。
 ただせっかく良いデザインや快適な環境づくりをしても、防音室の種目的である遮音性や室内音響の良好さを損なってしまっては本末転倒になってしまいます。そうならないように、いくつか気をつけるべき点がありますので、それを述べておくことにいたします。

 

窓について
 防音室が庭に面する位置にあったり、眺望の良い場所にあったりすると、やはり窓をつけてよい景色を眺めながら音楽を楽しみ地、それは当然のことですよね。しかし悩ましいことに、窓というのは外部に対する遮音においては、大きなウイークポイントになってしまう部分なのです。
 実際、防音室を作って、そこでピアノなどを弾いてもらって、屋外へ出て周囲を歩いてみると、壁のある所では内部からの音が殆ど聞こえないのに、窓の近くにくると音が聴こえてくるという経験はよくあります。
 それでは窓があるのとないのとでは、実際にどれくらい違ってくるものなのでしょうか。例えば図13Aのような防音室を考えてみます。この防音室が外に面している部分が図のように幅3.6m、高さ2.4mであったとしましょう。そうすると3.6×2.4=約8.6uが外に面しているということになります。
 この壁の遮音性能(外壁と遮音壁の合計)が50dbとして、そこに眺望を楽しむために幅1.6m、高さ1.0mの窓を設けたとします。窓の面先は1.6uですから、壁全体の1/5程度です。そしてこの窓の遮音性能を25dbとします。(住宅用のアルミサッシュとしては、わりとしっかりした性能といえます)
 さてその場合、窓を設ける前と後では、全体としての遮音性能はどれくらい違ってくるのでしょうか。窓の遮音性能が壁より劣るとはいえ、窓の面積は全体の1/5程度で、残りの4/5は壁なのですから、窓を設けてもそれほど遮音性能は落ないのではないかと思われるかたが多いかもしれません。しかし計算してみますと窓なしの場合50dbの遮音性能であったものが、窓を設けることにより32dbくらいに低下してしまいます。
 このように遮音力というものは、弱い部分に大きな影響を受けてしまうことがわかります。ですから窓を設ける場合は、その部分が弱点になってしまわないように十分な配慮をする必要があります。
 具体的には、窓を必要最小限の大きさにすること、二重窓にすること、サッシ本体は気密性能の良いものを使用し、ガラスも厚めのものを使用することなどです。さらに窓の位置にも気を配って、近隣の住居からなるべく離れたところに設けるなどの設計上の配慮も必要です。
 つまり居住性の快適さと遮音性能の保持の両方を見据えて防音室を設計することが、とても大切なことなのです。

 

換気について
 さて、前節で窓が遮音性能に及ぼす影響の大きさについて書きましたが、それと同じように、あるいはそれ以上に影響が大きいのが、換気扇です。
 防音室は、気密性がきわめて高い造りであり、しかも使用中は窓を開けることができないので、室内の空気が淀みがちです。ですから快適な居住性のためには、換気ということをぜひとも考慮しておかなければなりませんが、これが遮音についての盲点になりがちです。
 窓は目で見て、そこが開口部であろうことは一目瞭然ですので、そこからの音漏れに注意しなければならないことは、誰でも体感的に認識できます。しかし換気扇というのは小さい上に、見た目には外が見えないので、なんとなく感覚的に閉じているような気になってしまいがちです。
 しかし実際は、当然のことながら空気の流通のために外と空気的につながっていることが必須であり、音は空気を伝って容易に伝播しますので、実は遮音上は窓よりもたちが悪いと言えるのです。窓は閉めておけば一重でも25db、二重窓にすれは40dbくらいの遮音性能にはできますが、換気扇は小さいとはいえ、何の対策も施さなければ遮音性能はゼロなのです。
 仮に直径10cmという小型の換気扇が壁面に付いているとすると、それは開口面積は約0.008uで、先述の窓(幅1.6m、高さ1.0m)の面積(1.6u)の1/200にすぎないのですが、それが何も防音対策が施されていないとすると、計算上、壁面全体としての遮音性能は30dbに低下してしまいます。前節で計算したように、窓を設けた場合の遮音性能は32dbでしたから、それよりも悪くなってしまうわけです。
 換気扇をあなどるなかれ!このことは、いくら強調しても、しすぎることはありません。せっかく高い遮音性能の壁を作っても、蟻の一穴ならぬ換気扇の一穴で、台無しになってしまうのですから。
 そのようなことにならないようにする方策の一つは、換気扇のダクトやフードを防音仕様のものにすることです。しかし防音仕様といっても空気の流通を塞いでしまうわけにはいかないのですから、その性能には限界があります。ですからそれと併用して考慮すべきことは、換気扇を外部に面したところに設けないということです。
 こう言うと、エッ!そしたらどこに付けるの?と首をひねられる方があるかもしれませんが、防音室の空気はなにも屋外の空気と入れ替えなければならないと決まっているわけではありません。屋内の他の領域(例えば廊下とか、玄関ホールなどの、前室的空間)と入れ替えるということでもよいわけです。こうすることによって、換気扇から音が屋外に漏れることを効果的に防ぐことができます。
 ただ、言うまでもありませんが、上記の領域(前室的空間)には音が漏れるわけですから、そうなっても問題のないような場所に抜くように考えておかなければなりません。そのことも、防音室づくりというのは、単にそれだけを考えるのではなく、家全体を視野に入れて考えていくことが大事だということを示しています。

 

クロスについて
 建築においては壁面にクロスを貼ることが多いのですが、このクロスには本来のクロスである「織物クロス」と、塩化ビニール製の「ビニールクロス」があります。現代ではクロスと言うとビニールクロスのことを指すことが多く、織物クロスの場合は「織物クロスと」か「布クロス」とかきちんと言わないと、建築業者はビニールクロスを貼ってしまいます。
 ビニールクロスの利点は、安価であることと汚れにくいことです。価格の点ではビニールクロスは1平方メートルにつき1000円くらいですが、織物クロスは普及品でも4000円くらいします。6畳くらいの部屋ですと壁面積は30平方メートルくらいですので9万円くらいの違いが生じます。
 また汚れにくさという点では、ビニールクロスは汚れても水拭きで大抵綺麗になりますが、織物クロスはかなり念入りな清掃を必要としますし、染み込んでしまいますと取れません。
 そんなわけで現代ではビニールクロスが多用されているのですが、防音室には織物クロスが良いのです。なぜかと言うと音の透過性に違いがあるからです。織物クロスは本物の布ですから音をほぼ完全に透過します。しかしビニールクロスは、いわばビニールシートですから、織物クロスのように音を完全に透過することはできず、特に中高音域について透過性で劣り、ある程度の音を反射してしまいます。
 それらの透過性の優劣がどのように音に影響するかということをご説明しますと、防音室では吸音性のあるボードと反射性のあるボードを、最適な音響になるように適切に配分して施工します。そして、その上に仕上げ材としてクロスを貼ります。そのうち吸音ボードというのは、前章でも述べましたが表面が繊維質で微細な穴が無数にあり、そこに入った音が吸音されるようにできています。その表面に貼るクロスが織物クロスなら、それは音を透過しますから音はすべて吸音ボードに到達するのですが、ビニールクロスですと透過性が劣るので吸音ボードに十分に到達せず、ビニールクロス表面で反射されてしまいます。そのため、せっかく吸音ボードを使っても、その吸音効果が十分に発揮されないのです。
 この点は、良好な室内音響をつくるためには十分に留意すべきことなのですが、知識の無い業者はそのことを知らず、下地が吸音性ボードであろうが反射性ボードであろうが、その表面にビニールクロスを貼ってしまうことが多いです。このように下地の性質に無思慮に、なんでもかんでもビニールクロスを張ってしまうような業者は、音楽室の作り手としては失格です。

 

照明について
 照明は前述のように部屋全体、譜面台、楽器(特に鍵盤楽器の場合)について適切な照度を得ることができるようにするのは当然ですが、照明器具選びにおいて、一つ気をつけてほしいことがあります。それはダウンライトなどの天井埋め込み型照明は不可ということです。なぜならば天井の遮音パネルに穴を開けることになってしまうからです。
 第2章でも述べましたが、音は小さな穴や隙間から容易に漏れていきます。ですから、壁パネルや天井パネルをどんなに遮音性の良い材料で作っても、そこに穴や隙間があれば、遮音性能に大きなマイナス点となってしまいます。
 天井に埋め込むダウンライトは、すっきりしたデザインの部屋にするためには良いのですが、遮音性という点においては使ってはいけません。最近はLED照明が普及して、小型ですっきりしたデザインの薄型シーリングライトが、各メーカーから発売されるようになりました。それを使えば天井に穴をあけることなく、ダウンライト的なすっきり感を出すこともできますので、そのような器具を選定されますことをお勧めします。

 

コンセントなど
 さて、ダウンライトについて述べましたづいでに、壁に付けるコンセントやスイッチについても書いておきたいと思います。というのは、コンセントやスイッチも、見た目には壁から出っ張らず平面的ですが、ご承知の方もおられると思いますが、その内側には配線ボックスがあって、壁に埋め込まれた形になっていますが。つまり、ダウンライトに似た構造になっているわけです。
 ですので、スイッチやコンセントも、防音壁に埋め込んではいけない?とお考えになられるかたがおられるかもしれません。しかし、実はそれは大丈夫なのです。なぜかと言いますと、ダウンライトは埋め込み深さが60mm程度を必要とするのですが、スイッチやコンセントの配線ボックスは埋込み深さ35mm程度だからです。
 当設計室で造る防音壁は厚さ100mmですが、そのうち外側の65mmが遮音層であり、内側の35mmが音響調整用の層なのです。したがって配線ボックスは音響調整用の層の厚さの範囲で収まりますので、遮音層に穴を開けることがありません。ですから防音壁に埋め込んでも問題ないのです。
 時々、インターネットやYouTubeなどを見ていますと、スイッチやコンセントを、防音室の壁面から出っ張らせて付けている例があるのですが、そのようなのを見ますと、その防音室は音響調整用の層が無いのかなと、いぶかしく思ってしまいます。音響調整用の層が無いとすると、遮音層が室内側にむき出しになっているわけで、さぞかしキンキンとした聞き苦しい音の防音室だろうなと思います。

 

(写真)壁から出っ張って取り付けたコンセント。この防音室は音響調整層が無いのか?

 

 以上、居住性と音響性能を両立させるための注意点を述べました。
 さて次章では、よい防音室づくりの締めくくりとしまして、防音室と建物全体との関係について述べていきたいと思います。