よく響き、しかもキンキンしない音楽室(防音室)を作る方法
楽室(防音室)を作る目的は、「遮音」と「良質な室内音響」にあることは言うまでもありません。しかしクライアント(音楽室を作ろうとするオーナー)の方は、先ず「遮音」の方に目が向くようで、「周囲に気兼ねなく、思う存分楽器を奏でたい」というのが一般的な要望であることが多いです。
実は「遮音」というのは、それほど難しいことではありません。原則にのっとって、きちんとした工事を行なえば実現することができます。(ただ残念ながら、世間では、この原則について不十分な知識しかない施工業者が、見よう見まねでつくっている防音室?も多く、そういうのは論外なのですが・・・。)
ほんとうに難しいのは、「良質な室内音響」の方です。クライアントの方が、「遮音」のことだけに気が行って、室内音響のことをあまり考えずに作ってしまうと、完成後に不満が出てきます。「せっかく防音室を作ったのに、全然いい音じゃない!」「防音する前の、以前の部屋の方が良かった!」そして中には、「防音室というものは音が悪くなるから、防音などしないほうが良い!」などという方までおられるようです。「遮音」と「室内音響」の両方を、しっかりと考慮して作らないと、そのようなことになります。
ということで「遮音」だけでなく「室内音響」も考慮して作ったとしても、これがなかなか難しくて、響きすぎてうるさくならないように吸音材を多用すると、無味乾燥な、味も素っ気もない干からびた音の部屋になってしまったり、そうかといって響かせるように反射性の材料を多用すると、キンキンして聴きづらい音になってしまったりします。
それをどのように上手く処理していくかが音響設計における腕の見せどころなのですが、私たちの設計室ではこれまで研究や実践を元に創りあげていった基本的なセオリーがあり、最近たずさわった音楽室においては、その考えを取り入れるようにしています。
その技法は、一口で言うと、一つの空間(音楽室)の中に、響かせるエリアと吸音するエリアを併存させることです。と言っても、例えば天井は吸音性にして床は反射性にするというような単純なことではありません。おおまかに言えば、音楽室の音源と聴取者の間における1次反射音と2次以降の反射音を識別して、これらに対して別々の扱いをしていくということなのですが、これ以上のことは、いわば"企業秘密"(大げさですが)なので、このHPで述べるのは、ここまでにしておきます。
最近、神戸市東灘区でオープンしたフルート店+音楽サロン(小ホール)の、La Flute Enchantee では、そのセオリーを取り入れて、たいへん素晴らしい音響にすることができました。実は、この建物は、元々、室内がコンクリートむき出しでキンキンした音である上に、アーチ型の凹曲面天井になっており、定在波発生の見本みたいな、およそ音楽サロンには不向きな造りだったのですが、豊かな響きを失うことなく、たいへん潤いのある音響にすることができました。
ですので、音楽室(防音室)を作るときは、「遮音」だけでなく、それと同じくらいに「室内音響」にも考慮することが、かんじんです。このことは、決しておろそかにしないようにしていただきたいと思います。