音響随想(2)・・・落ち着けないレストラン

 私の設計事務所の近くに、半年ほど前、11階建てのシティホテルが完成しました。大理石を使ったゴージャスなロビーの奥にレストランがあります。これもインテリアデザイン的には、なかなかおしゃれなものだと思います。

 

 でもこのレストラン、私はオープン直後に2~3回行ったきりで、その後あまり行く気になれません。なぜならここで食事をしたりお茶を飲んだりしていても全然落ち着けないからです。その理由は明らかです。あまりにも騒音が耳につくのです。

 

 なぜそうなのかは、内装を見渡してみればすぐにわかります。床は木製のフローリング。壁はセメント系のパネルが主体で、一面全体にガラスのミラーが貼ってあります。天井は硬質のボードで、一部はコンクリート直仕上げです。つまり反射性の材料ばかりで構成されており、吸音性の材料はほとんど使われていません。

 

 ですからナイフやフォークのカチャカチャいう音が妙によく響きます。また他の客の話し声も、少し離れていても、けっこうよく聞こえてきます。厨房での皿を洗う音までが漏れてきます。つまり全体が何か騒々しいのです。このような中では連れのものと会話をするにも少し大きめの声で話さなければなりません。皆が皆そうするものだから、よけいに騒がしい感じになります。

 

 このレストランを設計したインテリアデザイナーは、たしかに視覚面でのデザインセンスはあるのかも知れません。しかし音のセンスは皆無・・・、というよりも全く注意が払われてないのです。このようなことが、残念ながら我が国では、いたるところでまかり通っています。このレストランの場合、たとえば天井をロックウール吸音板にするなどの、ちょっとした音響上の知識と配慮があれば、ずいぶんと良くなったはずなのです。

 

 皆さんも、このようなご経験はないでしょうか。今度レストランや喫茶店へ行かれたら、その室内の音の具合と内装材料に注意してみてください。